ガイドブックのガイドブック

出版動向

出版動向2008―2009

以前に比べると各社とも似たような傾向に収斂されてきている。独自性のあるガイドブックが少なくなってきているのは残念だ。制作費削減圧力も強いようで、同一地域で情報を使い回しながらターゲット別に書籍を刊行したり、既存コンテンツの地域割りを再構成して刊行したシリーズもみられる。

軽薄短小

軽い、薄い、小さい、そしておもに短期間の旅行をターゲットにしたシリーズが増加傾向にある。地域情報を網羅的にまとめ、情報量の充実度を売り物にする古典的なガイドブックとは違った方向性のシリーズだ。

一つの都市や狭い範囲の目的地をクローズアップする、短期間の旅行でも必ず回る観光地に厳選する、モデルとなる旅行のスケジュールを明確にする、テーマ化を進める、といった方向性が特徴だ。網羅的な情報の収録を目指さないことで、コンパクトにまとめられている。

ハイライトとなる観光地に絞り、少ないページ数でまとめたDorling Kindersley社(DK)のEyewitness Top 10 Travel Guidesがこの分野の先駆けといえそうだ。英語書籍では、現地情報を重視したLonely Planet社の Encounter Guidesが、日本語書籍ではダイヤモンド・ビッグ社の「地球の歩き方GEM STONE」やJTBパブリッシングの「ララチッタ」が代表的なものであろう。今年(2009年)に入ってからもアメリカ合衆国在住者の短期国内旅行をターゲットにしたLonely Planet社の“US Trips”のシリーズや、昭文社の「ことりっぷ」「ミニまっぷる」など、この傾向のシリーズが新たに登場している。

宿泊情報は削減?

上述したシリーズの多くで削減されたのは宿泊に関する情報だ。

中級以上のみならず、比較的低予算の旅行者でも宿泊予約を行うケースが増えてきたためと思われるが、このような傾向はインターネットの普及がもっとも影響している分野であろう。近い将来、宿泊情報はガイドブックの必須情報ではなくなるかもしれない。

ただし、宿泊情報を縮小しテーマ別に構成したシリーズのみを刊行する版元はわずかだ。宿泊情報を含め従来どおり網羅的な情報を収録したシリーズと、それらを削減して滞在情報をコンパクトにまとめたシリーズを併売する形となっている。

そのねらいは、旅行者に複数のガイドブックを購入させることのように思われる。しかし、シリーズ化されていない単行本も充実した日本のような先進国のマーケットでは、意図したようにはならないと弊サイトでは予想している。むしろ、宿泊情報はインターネットですませてしまい、ガイドブックは価格もやや安い「軽薄短小」な書籍しか購入しない旅行者を増やしてしまう可能性もありそうだ。

シリーズものと単行本

弊サイトでの収録対象ではないが、シリーズではない単行本は比較的活気がある。シリーズ別ではなく地域別にガイドブックを陳列するジュンク堂書店の店舗をみると、この傾向を把握しやすいだろう。シリーズものに関しても、マニアックで野心的なガイドブックの登場を期待したいところだが、初期投資の大きさをはじめ、課題は多い。

バブル期のように最初から多数のタイトルをそろえたシリーズの登場はなくなっている。「売れ筋」の目的地10巻前後から少しずつタイトルを広げてゆく慎重な展開が目立つ。

旅行ガイドブックがシリーズで刊行されてきたことには、出版物の流通や販売のシステムも少なからぬ影響を与えてきたと考えている。定期的に更新される巻数の多いシリーズを流通させれば、会計的なメリットが生じるケースもある。

しかし、オンライン書店の普及や書店数の減少など、出版物の販売は大きく変化した。弊サイトではいわゆる「ロングテール市場」をカバーする形でシリーズ以外のガイドブックがゲリラ的に刊行される状況を予想しているが、動向を見守ってゆきたいところだ。