ガイドブックのガイドブック
収録シリーズ紹介
収録シリーズ
収録しているシリーズを簡単に紹介しておく。タイトルごとに完成度の差はあるので、シリーズに対する評価が必ずしも全タイトルにあてはまるわけではない点をご理解いただきたい。なお、弊サイトでは雑誌は収録しないが、mookは書籍と分け隔てなく収録している。
また、今のところ翻訳されたガイドブックを収録する予定はない。このコンテンツがガイドブックの出版状況を調査する目的でスタートしたこと、および、ガイドブックは翻訳がきわめて困難なコンテンツであると考えていることが理由である。Lonely PlanetおよびNational Geographicのシリーズは、日本語訳も刊行されている。
Country Guides, Multi Country Guide, Regional Guides, City Guides
Lonely Planet Publications
定番、Lonely Planet社のシリーズ。地図をはじめ体裁もよく練られている。かつてのような独自性は弱まり、「ふつうの」ガイドブックに近づいてきたようだ。
現在では1980~1990年代に各タイトルの基礎を作った著者の多くは交代してしまっている。その後も著者の交代は少なくない。カラーページも増え、本の体裁はかつてと比べようもなく向上したが、著者の対象地域に対する高い理解度に裏付けされた「含蓄の深い」内容からは遠ざかりつつある。
格安旅行向けのイメージが強いが、地域別タイトルは中級旅行向けの情報が充実している。冒頭で述べたように、一部のタイトルは日本語訳も刊行されている。
Shoestring Guides
Lonely Planet Publications
Lonely Planet社の伝統を引き継ぐ「かつかつ旅行」シリーズであるが、同社の出版物の中で占める重要度は相当低下している模様。現在では同社より刊行されているその他のシリーズと同様、図版や印刷も良くなり本としての体裁は格段に向上したが、倹約家相手の商売では儲からないというのが本音なのかもしれない。
Encounter Guides
Lonely Planet Publications
Encounter Guidesでは地元発の詳細な、そして格安旅行向けとはいえない情報を充実させるいっぽうで、宿泊施設情報を削減している。こうした編集方針からは、あらかじめホテルを手配して旅行する中級以上の読者を対象としていることがうかがえる。
現在もいくつかのタイトルが流通しているBest of... Guidesの事実上の後継シリーズであろう。
Custom Guides
Lonely Planet Publications
ざっくばらんに申し上げて、「あきれた」シリーズである。Lonely Planet社サイトの記載によれば“we've created by binding together sections of our most popular guides”だそうだ。改編や新刊制作の費用も出せないほどトニーちゃんは資金繰りに困っているのだろうか? 弊サイトとしては「ニコイチガイド」と命名したい。
皮肉はこの程度にしておくが、世界最大級といっても過言ではないガイドブックの版元がこのようなシリーズを刊行するという状況は深刻だろう。想像以上に旅行産業に不況の影響が及んでいることを再確認せざるを得ないシリーズだ。
2012.1.10追記
さすがに無理があることにはすぐ気がついたらしく、続編はない模様。その代わり、自社サイトで複数のガイドブックをまとめてパッケージとして販売することに注力し始めたようだ。
Discover
Lonely Planet Publications
ロンリープラネット社が拡充しつつあるオールカラーのガイドブックシリーズ。カラーページはほとんどない質実剛健な創刊当初のロンリープラネット社のシリーズを知る者から見れば、ついにここまできたかという印象で、隔世の感がある。販売は必ずしも順調とはいえないようで、直販サイトでは大幅な値引きも目立つ。
悪い本だとは思わないが、いったん格安旅行でエスタブリッシュメントとなってしまったことが、同社刊行物の顧客を固定し、新しいチャレンジをスポイルしてしまっているようにも見える。今日、オールカラーの書籍だからといって大幅なコストアップになるわけでもないだろうが、高めの値付けからスタートしたのも苦戦の一因のようだ。
新規事業にはやはり困難が伴うのだろう。どこまでこのシリーズを育てられるのかを見守りたいところだ。
Eyewitness Travel Guides, Eyewitness Top 10 Travel Guides
DK Publishing
わが道を突き進む図説ガイドブック。装丁は美しくイラストや写真を見ているだけで楽しめる。ランドマークなどをひと目で把握できる都市別のガイドは実用性もきわめて高い。情報の新しさや充実度は期待できないが、街歩きにはうってつけだ。リビングの「置物」としても非常に見栄えがする。
欠点は用紙の選択がいまひとつで、日本の書籍に比べるとかなり重たいこと。また、ページもめくりにくい。
Bradt Travel Guides
Bradt Travel Guides
エキセントリックなディスティネーションのガイドブックを刊行している。改版時の著者変更はわずかで、古き良き時代―1990年代前半頃まで―のLonely Planetを彷彿とさせるシリーズだ。「古き良き時代」のLonely Planet同様、写真は少なく、グラフィカルなアピールはまったくない。
Lonely Planetが逃がした「柳の下に一匹しかいない鰌」を捕まえている。
Rough Guides, Mini Rough Guides
Rough Guides
名前のとおり「Rough」なガイドブックであったが、1990年代から大きく成長した。世界の広範囲をカバーするようになり、シリーズは充実したが、版元サイトの構成が「Rough」で分かりにくいのはいただけない。これでは流通・販売分野で損をしてしまう。強みもあるが、このような点でLonely Planet社に一歩劣ってしまっているように感じられる。
どちらかと言えばマニアックな内容が特徴。良くも悪くも著者の特徴が出るので、タイトルごとに嗜好が合うかどうかかなり違ってくる。
Footprint
Footprint Handbooks
サンプリングがまだ不十分だが、完成度は高い模様。収録されている情報はきわめて詳細にわたり、対象地域の選定も玄人好みである。創生期のLPのように少人数のライターで執筆している点も特徴といえよう。
Let's Go
Let's Go Publications
格安旅行のガイドブックとしては随一の老舗である。対象地域を広げたことで性格が分かりにくくなっている感が否めなかったが、2004~2005年ごろを境に、もともと得意としていた分野に出版物を絞り込むようになった模様。一方、この時期に先立って初版が刊行された日本編(2003年12月刊行)などは、いまだに改版されていない。
ある意味「先祖返り」が進みつつある状況下で、今後充実したタイトルが登場するのかどうかを見守りたい。
Time Out Guides
Time Out
ヨーロッパを中心に、充実した都市別ガイドを揃えている。今のところ収録していないが、飲食店情報やショッピング情報に特化したタイトルもある。宿泊情報を減らして現地情報を充実させる最近の動向を先取りしていたといえよう。2回目以降の訪問に向くシリーズといえそうだ。
Insight Guides
APA Publications
タイトルごとのばらつきはあるものの、文章や取りあげているエピソードが面白い。実用性は乏しいが、このシリーズを読んでおけば、ちょっとした「事情通」になれる。
古くからあるシリーズで、多方面に影響を与えているようだ。例えば、村上春樹の『雨天炎天』のトルコ部分は、このシリーズInsight Guide Turkey内容と訪問地やエピソードが相当重複している。
Pocket Guides、Compact Guides、Smart Guides、Step by Step Guides
APA Publications
ページ数は抑え、ターゲットとなる読者層ごとに内容を絞ったシリーズである。必要もないのに分厚いガイドブックを持ち歩くのはばかばかしい。必要な情報だけにまとめるという考え方は否定しない。
しかし、やり過ぎだ。読者層が重複している感は否めない。さらには毒にも薬にもならない内容になっている印象を抱くタイトルすらある。包括的な情報を収録するInsight Guidesと、もう1シリーズ程度に絞るべきであろう。
National Geographic Traveler Guidebooks
National Geographic
実用的なガイドブックではないが、対象地域の基本的な知識を得るには向いているシリーズ。写真、文章ともそつなくまとまっており、ある意味教科書的なガイドブックである。
Lonely Planet社のシリーズと同様、一部のタイトルは日本語訳も刊行されている。
地球の歩き方
ダイヤモンド・ビッグ社
刊行当初の「口コミ情報」をそのまま掲載するというスタイルは相当に独特であった。30年前(1979年)にインターネットの掲示板を紙媒体でやってのけたようなものである。
最近では「口コミ情報」に割かれるページはわずかになり、ごく普通のガイドブックになってしまった。書籍の完成度としては見違えるような進歩を遂げたが、独自性は薄まったといえよう。
地球の歩き方リゾート、地球の歩き方GEM STONE、地球の歩き方鉄道
ダイヤモンド・ビッグ社
「地球の歩き方リゾート」や「地球の歩き方GEM STONE」、「地球の歩き方鉄道」など、テーマ化したタイトルを充実させてきている。刊行当初からのシリーズに追加されたこれらのシリーズがどこまで成長するのかが課題となりそうだ。
タビトモ
JTBパブリッシング
2009年から刊行が始まった薄くて軽いガイドブック。「ララチッタ」とコンセプトは類似するシリーズといえる。
異なるのは、「女くさい」ララチッタから対象ジェンダーを限定しない方向に進んでいる点だ。広報資料のキャラクターは男が多い。そして、実用性を強調しているのもポイントであろう。
「ララチッタ―タビトモ」の関係は昭文社「ミニまっぷる―ことりっぷ海外版」の関係と似ている。しかし、対象ジェンダーを絞ったシリーズを後から刊行した「ミニまっぷる―ことりっぷ海外版」と対象ジェンダーを絞らないシリーズを後から追加した「ララチッタ―タビトモ」では、進んでいる方向がまったく違うといえそうだ。
ララチッタ
JTBパブリッシング
薄くて軽い都市別ガイドブック。しかし、旅行者の動線にマッチした構成で、ホテルを手配した短期間の旅行ならこのシリーズ1冊でガイドブックが間に合ってしまうかもしれない。
グラフィックは充実しており、地図はコンパクトながら使いやすい。「余計な情報を与えない」ことも編集の重要な要素であることを再認識させられるタイトルも多い。
タイトルは目的地名そのままで簡潔・明快だが、シリーズ名は具体的ではなく内容が分かりにくい。ウェブ販売では損をしそうだ。店頭販売を中心にする方針なのかもしれない。
るるぶ情報版
JTBパブリッシング
「お遊び系」であることを馬鹿にする向きもあるが、日本語のガイドブックとしてはもっともコンセプトがはっきりしていて、割り切りがよい。旅行者の動線にマッチすることも多いと思われる。
現在では国別、あるいは目的地別のタイトルが中心となったが、かつては「イタリア・ロンドン・パリ」という目的地をを1冊にまとめたタイトルも刊行されていた。当時の周遊型の旅行スタイルを反映したものといえよう。
旅行に対する嗜好の多様化にともない、南アフリカやパラオといったディスティネーションも揃うようになった。また、内容も充実させる傾向にあるようで、1500円のタイトルも登場している。
装丁や判型が異なれば、もう少し「堅い」ガイドブックというイメージになるのだろう。
ブルーガイドわがまま歩き、わがまま歩き+、わがまま歩きツアーズ
実業之日本社
個人旅行向け情報を充実させた「るるぶ情報版」という印象。よい意味で他社各シリーズの「おいしいところ取り」をしている。
弊サイトとしてはパッケージツアー客向けに対象を絞った「わがまま歩きツアーズ」の動向に注目。「カルチャーガイド・トラベラー」の刊行が止まっているだけに、この分野の可能性を見極めたいところだが、タイトルを絞っていることが幸いしているようで、改版されたものも多い。
新個人旅行
昭文社
2005年から刊行されている新しいシリーズである。それ以前には「個人旅行」というシリーズが刊行されていた。
良くも悪くも凡庸なシリーズであり、これといった目新しさはない。となると「のれん」で売る要素が大きいと考えられ、一定の知名度を確保していた「個人旅行」を廃して刊行を開始したこのシリーズには、継続性に疑問を抱いていた。そのため収録を見送っていたが、改版されるタイトルも出始めたことから収録を開始。
まっぷるマガジン
昭文社
「るるぶ情報版」と類似のシリーズである。シリーズは縮小気味の模様で、「売れ筋」の目的地に絞って刊行する傾向が出てきている。
ミニまっぷる
昭文社
シリーズ名には「まっぷる」を冠しているが、判型も異なりイメージは大きく異なる。実際の読者層もまっぷるマガジンとは違ってきそうだ。このシリーズも「軽薄短小」なガイドブックに向かう傾向を示すものだろう。
ことりっぷ海外版
昭文社
2009年に刊行された軽く、薄く、小さい判型で、短期旅行をターゲットとする新しいシリーズである。明確に女性をターゲットとして設定していることがこのシリーズの特徴だ。軽さや持ち運びやすさを追求しているのは手に取ってみた感じからも伝わってくる。
いっぽう、対象ジェンダーを絞ることがビジネスとしてどこまで有効なのかについては疑問が残る。国内版ではある程度の実績を残しているとみられるシリーズではあるが、対象地域も重なる同社「ミニまっぷる」との競合も考えられる。今後の動向に注目したい。
旅行人ノート
旅行人
ターゲットを特定の層に絞った、コンセプトのはっきりしたガイドブック。極めてユニークだが、日本語書籍でこのスタイルの出版を成り立たせるのは並大抵の努力ではないだろう。
歩くガイドシリーズ
メディアポルタ
現地在住者の情報と地図にこだわったシリーズ。総合的なガイドブックではなく、今のところ対象地域も限られるが、コンセプトは明確。マニアックな内容で2回目以降の訪問者には旅行の楽しみを広げる一助となろう。
旅の指さし会話帳
情報センター出版局
旅行用に特化した絵解きの会話集で、日本では今までなかったカテゴリーと言える。語学専門書としては不正確な箇所も指摘されるが、通常の観光旅行ならば使い勝手は非常によい。本格的に学習するのなら専門のテキストを使用すべきであろう。
イラスト会話ブック
JTBパブリッシング
「旅の指さし会話帳」と同様の絵解きの会話集だが、シリーズとして共通した構成がより意識されている。「日本の紹介」の項目がある点はユニーク。「旅の指さし会話帳」と同様、本格的に学習するのなら専門のテキストを使用すべきであろう。
旅名人ブックス
日経BP
実用的ではないものの、旅行前に読む書籍としてはおすすめできるタイトルも多い。新しいタイトルの追加や改版も継続的に行われており、日本語の旅行読み物として一定の地位を確保しつつあるといえよう。
英語の同種の書籍のようなウィットや、ずば抜けた「マニアック」さがこのシリーズに足りない点かもしれない。もっとも日本では、シリーズもの以外にマニアックな書籍が多いという傾向があり、このシリーズは影が薄くなってしまっている。実際に旅行に出かける読者層は少ない可能性がある。
...で、結局
宿探しや交通機関の手配を現地でやる場合、Lonely Planet社の地域別タイトル、「地球の歩き方」「わがまま歩き」などのシリーズから1、2冊を選ぶのが現実的であろう。アフリカやチベットのような「ガイドブック過疎地帯」では「旅行人ノート」もターゲットになる。
パッケージツアーであったり、宿や交通機関をあらかじめ手配した旅行ならば「るるぶ情報版」でも必要な情報のほとんどをカバーできてしまうかもしれない。
読み物を兼ねた補助的なガイドブックとして、旅名人ブックスや、Eyewitness Travel Guides を用意すると、旅行の幅がぐんと広がる。旅行の期間が短いせいか、日本人の観光客はこうした種類の書籍にこれまで関心が少なかったようだ。しかし、テーマ性のある旅行を求めるならば、これらのシリーズは見逃せない。
ガイドブックからはややはずれる部分もあるが、「フレーズ・ブック」として「旅の指さし会話帳」と「イラスト会話ブック」を収録している。一般的なガイドブックに付属する単語帳よりは格段に使いやすく、旅行の楽しみを広げる一助となろう。
過去に収録していたシリーズ
収録を中止したシリーズについての記述も残しておく。
ワールドガイド
JTBパブリッシング
ワールドガイドは中級以上の旅行向けとして、非常にまとまりがよい。目新しさはないが、無難なシリーズだ。
改版も停止し版元の広報媒体からも削除されたため収録を中止。
ポケットガイド
JTBパブリッシング
基本的には周遊型のパッケージツアー客向けの構成といえよう。今日の旅行スタイルを考えると、このシリーズはすでに役目を終えたのかもしれない。改編も停滞している模様だ。
しかし、基本情報をコンパクトにまとめたガイドブックとして、このシリーズが果たしてきた役割は大きいだろう。最近は軽さや小ささを追求したガイドブックの登場が相次いでいるが、旅行スタイルに合わせて情報を絞り、持ち運びの容易な判型にまとめるというコンセプトは、ポケットガイドへの「先祖返り」といえる面もありそうだ。
改版も停止し版元の広報媒体からも削除されたため収録を中止。
ワールド・カルチャーガイド、ヨーロッパ・カルチャーガイド
トラベルジャーナル
読み物として面白い。Eyewitness Travel Guides のような美しさはないが、図版も多用されている。もう少し実用性が上がれば、Eyewitness に相当する地位を日本語ガイドブックとして確保できるのではなかろうか。
コンセプトは気に入っていたものの、新しいタイトルの刊行や既刊の改版も停止してしまった。入手できないタイトルが増えてきたため、収録を中止。
カルチャーガイド・トラベラー
トラベルジャーナル
ツアー旅行者向けを明確に打ち出したシリーズ。「潔い」コンセプトだ。プロセスから旅を組み立てる個人旅行者と、出来合の旅行を購入するツアー客の二極分化は進行していると考えられるかもしれない。
こちらも新しいタイトルの刊行や既刊の改版もなく、入手できないタイトルが増えてきたため、収録を中止。
個人旅行
昭文社
卒なくまとまっていてガイドブックとしての完成度は高い。ホテルの部屋やレストラン店内の写真が充実しているのが特徴。しかし、文章はよくある解説と似たり寄ったりで、これといった特徴がないのが欠点か。
シリーズの廃止により収録を中止。
なおシリーズ廃止後、成美堂出版よりこのシリーズを制作していた編集プロダクションによる「いい旅・街歩き」というシリーズが刊行された。2008年中盤以降改編されるタイトルもない模様なので今のところ収録は見送っている。